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WM-61A改マイクとNMJ2115マイクアンプの製作
2011年9月、2013年10月

マイクを作ってみたい
 金田さんが無線と実験にDCマイクを発表して以来、マイクを自作してみたいとずっと考えていました。しかし、金田さんの使用しているマイクカプセルは、私にはとては買えるような値段ではありませんので、代わりになるようなものがないか情報を集めていました。2000年頃だと思うのですが、マイクカプセルについて書いてあるサイトの中に、panasonicのWM-61Aという名前を見つけました。しかも、Siegfried Linkwitz氏考案のカプセルの改造を行うと、耐入力が向上するだけでなく、音質的にも良好な結果が得られるように書いてあります。 しかし、当時、日本での入手は困難でDifi-keyから購入する必要がありました。また、100円程度のカプセルなのに送料が5000円も取られるということでなかなか買う気にならず、時間が過ぎていきました。しかし、2005年にヤフオクを見ていたら、WM-61Aらしいマイクカプセルが40個500円で出品されていました。ラジカセ用なのか、2個が一個のコネクタにリード線でハンダ付けされているものが20ペアです。リード線が付いているので、ハンダ付けの手間が省けるし、何と言っても安いのが魅力です。早速、2セットを注文しました。
 しかし、手に入れたのはいいのですが、なかなかマイクのアイディアが固まらないまま、時間が過ぎて2011年になってからようやく製作することになりました。

WM-61Aの改造
 今回は、WM-61Aをpanasonicの推奨回路のソース設置の2線式のままでも使いますが、ソースフォロアに改造したものも使います。改造方法については、ネットに色々情報があるのでここで紹介するまでもないのですが、改造前と後の写真を下に示します。左は元のソース接地2線式の状態、これを改造して右側のようにソースをケースから切り離し、三線式にしてソースフォロワとして利用できるようにします。
 二線式のソースフォロワにする方法もありますが、電源を006Pの1個だけにする場合は外側のアルミケースをプラス電位にする必要があります。マイクアンプ、パソコンなどはケースをアース電位にするのが普通なので、マイク本外の金属部分がマイクアンプなどと接触するとショートする可能性があるため、三線式のソースフォロワにしています。(マイクアンプを作り直してプラスアースにする方法もありますが、面倒なので止めました。)
 ハンダ付けは、周りのアルミケースに熱が奪われるので十分な熱が必要なようです。こて先の温度を高めにし、カプセルを壊さない程度に時間をかけて予備ハンダする必要がありました。また、秋月で売っているカプセルは金メッキしてありますが、私が手に入れたものはスズメッキです。このせいか、ハンダが乗りにくいものがありました。

 
WM-61Aを使ったマイクの製作
 今回は、3種類のマイクを作ってみました。下に回路図を示しますが、一番上は負荷抵抗を2.2kΩにしたメーカー推奨の回路に近いもの、中央はWM-61A改のソースフォロワタイプでマイクカプセルの直近にソース抵抗を入れています。このため、パスコンも直近に追加しています。下は、マイクカプセル内のFETに高いゲインを持たせて使ってみようというものです。負荷抵抗を10kΩにしてエミッタフォロワで出力を送り出します。
 マイクカプセルの直近に抵抗を付ようと考えたのは、マイクカプセルの中にFETが入っていて、カプセルをアンプと考えた方がいいように思えたからです。これがどのような結果になるのか見当がつきませんが、悪いことにはならないと思われましたので、とにかく作ってみることにしました。


メーカ推奨回路に近い形


ソースフォロワに改造したタイプ


高感度タイプ
(1)マイクボディ
 マイクのボディは、WM-61Aが収まること、シールド効果の高い金属製であること、ボディの先端はなるべく細くという条件で考えました。その結果、外径8mm、内径6mmのアルミパイプを適当に切ってその中に収めることにしました。ただ、アルミパイプのままだとマイクスタンドで保持できないので、100円ショップで売っていた木の丸棒を適当に切り、アルミパイプを貫通させるように穴を開けてみました。
 WM-61Aは、外径が6mmよりも若干大きいので、アルミパイプにリーマなどで若干のテーパー状に穴を広げます。少し押し込んで固定しました。


(2)ソースフォロワタイプのマイク
 マイクのボディは、内径6mmのアルミパイプですから、その中に抵抗とバイパス・コンデンサを入れます。下の写真のように回路を作り、ショートしないように熱収縮チューブを被せてアルミパイプの中に収めます。熱収縮チューブは秋葉原の秋月電子や千石電商で入手できますし、ちょっと遠い方はアマゾンや私が半導体を買うのに使っているRSコンポーネンツでも入手できます。マイクボディからマイクアンプまでは1.5mほどの2芯シールド線を使います。アルミパイプの中に入っているためにシールドが理想的な状態のせいか、ノイズが気になることはありませんでした。

 



(3)高感度タイプのマイク
 こちらは、アルミパイプの中にトランジスタ、抵抗、バイパス・コンデンサが入ります。このため、下の写真のように回路を組み立てて収めました。

 

 

 

マイクアンプ
 マイクアンプは上で作ったマイクに電源を供給することと、マイクの信号を増幅するために必要になります。マイクボディの中に回路を入れているのと、マイクボディからマイクアンプまでの距離を短くするつもりなので、アンバランスでもノイズの心配はないはずです。このため、バランス回路にはしません。マイクアンプの出力はUSBオーディオインターフェースなどに接続して録音することになります。
 電源は006Pの9Vを使う予定なので、低電圧で動作する必要があります。
 一番心配したので、ノイズです。ノイズレベルがどのくらいであれば問題ないのか見当がつかなかったので、色々迷いました。あと、マイクアンプはなるべく小さく作りたかったのと、電池で一日くらいは動作して欲しいので、ディスクリートで組むのは諦めました。
 ということで、増幅にはオペアンプの出番になる訳ですが、9Vくらいの電源で安定に動作し、かつ手頃な値段で手に入るものというと、選択の余地がほとんどありません。ローノイズと謳っているNJM2122あたりがよさそうなのですが、入手性が悪く、またNFB後のゲインが30dB以下の場合、外部に補償回路が必要になるという問題があります。このため、NJM2115を使ってみることにしました。
 回路図を以下に示しますが、電源は9Vの電池から供給します。電池を繋ぐときにプラスマイナスが逆に電圧がかかる心配があるので、ショットキーダイオードを入れています。NJM2115を動作させるための中点電位は、抵抗で分圧して作ります。NJM2115に電位を与える抵抗は10kΩにして、これを入力抵抗として使います。入力側で減衰が必要な場合は100kΩの抵抗を直列に入れ、約20dB減衰させることができるようにします。NJM2115のゲインは、帰還抵抗をジャンパで切り替えて調整するようにしました。
 マイクからの信号は、直流電圧が重畳しているので、コンデンサで直流をカットしますが、中点電圧に対してプラス側、マイナス側のどちらにも振れる可能性があるので、バイポーラコンデンサを使っています。

 

 基板のパターンを以下に示します。小さく収めるために、基板の裏から取り付けている部品があります。水色のパターンが裏からハンダ付けしている回路、部品です。



100円ショップで買った缶に収めた様子。缶もアースに繋いでおきます。


マイクのコネクタは、ステレオミニジャックを使用

 
電池を繋ぎ、試験している様子
マイク本体とマイクアンプのコネクタ
 ShinさんのPA工作室には、ミニプラグが使えないと書かれて(「ミニプラグ・ジャックの宿命的欠陥について」)います。確かにプロの用途には難しいと思います。しかし、アマチュアの用途であれば、あまり気にしなくていいと考えました。接触不良の軽減には、マイク側にバイパス・コンデンサを入れ、ミニプラグにはシリコンスプレーを吹き付けて対処しています。

WM-61A内臓のFET
 高感度タイプのマイクを作って、ソースフォロワタイプのマイクとゲインを比較してみたところ、約7倍程度の感度差でした。負荷抵抗が2.2kΩの時に、ソースフォロワタイプよりも約3倍程度ゲインがありますから、普通に考えると14倍程度のゲインがあってもいいはずです。このようにゲインが低くなるのには何か理由があるはずです。
 この理由を以下のように考えてみました。
 内蔵FETのCrssは約2pFくらいと思われます。下の図ではCdgとして表示しています。エレクトレットコンデンサマイクカプセルの容量をCcとします。内蔵FETのCiss、それにFETのバイアス電圧供給のために入っていると思われるダイオードの容量の合計をCgsとします。
 こうなると、Cdg と Cc+Cgsでドレイン-ゲート帰還回路が形成されているような形になります。内蔵FETが2SK123と仮定し、IDSSが0.3mAのときにgmが約2mSです。RDを2.2kΩのときにすると裸のゲインは約4.4倍ですが、実際は約3倍くらいです。同様にRDが10kΩのときは裸のゲインが約20倍ですが、実際は約7倍です。
 このような状態に近いドレイン-ゲート帰還回路のβは0.1くらいということになります。ということは、下図でCdgが2pFくらいとすると、 Cc+Cgsの値が18pFくらいということになります。
 このようにドレイン-ゲート帰還が掛かっていると考えると、RDを大きくしてもゲインが上がらない説明ができそうです。ですから、いくらRDを大きな値にしても、得られるゲインは約10倍で頭打ちになると思われます。

 内蔵FETのドレインからゲートへの帰還があるということは、マイクの音質への影響があるはずです。ネットでWM-61Aの音質について検索してみると、ソースフォロワタイプの方が好ましいという意見があるのは、このドレン-ゲート帰還が影響している可能性がありそうです。

実際に録音してみた感想
 マイクアンプのゲインを調整して、ソースフォロワタイプと高感度タイプのマイクを同じくらいの音量になるようにして聞いてみると、ノイズレベルが同じくらいです。ですから、NJM2115のノイズよりもWM-61Aのノイズが支配的なようです。NJM2115でも問題なく使えることが分かって安心しました。
 高感度タイプのマイクでマイクアンプのゲインを20dBくらいにして録音してみたところ、近くで太鼓が鳴った時にクリップしてしまいました。それ以外は、普通に録音できているので、高感度タイプは、静かな場所での録音に向いているようです。
 ソースフォロワタイプは、マイクアンプのゲインを10dBにして、雷の音をクリップすることなく綺麗に録音できました。また、大人数の御詠歌の録音では、マイクアンプのゲインを20dBにして問題なく録音できました。この時、ゲインは不足気味でしたが、WM-61AとNMJ2115を使ったアンプのノイズが少ないので、後で音量を再調整してもノイズは気になりません。非常に静かな場所での録音以外はノイズを気にする必要はなさそうです。

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