カスタム検索

トランジスタ、FET選別アダプタ

(2004年4月頃製作)
(2011年9月 ユニバーサル基板のパターン設計追加)

 半導体アンプの製作で、トランジスタ、FETの選別が必要になることがあります。1975年頃だったと思うのですが、 オペアンプを使った選別用のツールを紹介していた記事がありました(金田さんだったかトランジスタ技術の記事だったかはっきり覚えていない)。 下図のように、測定するトランジスタをNFループの中に入れ、エミッタの電位をほぼゼロに固定します。こうすると、 電流は図中の式のようにReの抵抗と電源電圧で決まります。このときのベース電流を測定し、エミッタを流れる電流をベース電流で割ってやればhfeが求まります (コレクタ電流ではなくエミッタ電流を使っているので、実際はほぼhfe+1になりますが、選別に使うのであれば問題ないです)。 エミッタ電流を固定した状態で測定できるので、沢山の素子を比較的短時間のうちに測定でき、 便利です。このため、それを基板にしてバラックで使っていました。
 オーディオに出戻りしてまた半導体アンプを作ろうとしたとき、素子の選別が必要になりました。それで、小信号トランジスタだけでなく、 パワートランジスタも選別できるように組み上げてみました。 以前のバラック状態よりはだいぶ改善され(タッパーのケースに収めただけですが)、また、電源を組み込んだので使いやすくなりました。
 高価な測定器とは違って測定に手間はかかりますが、自分の設計した条件で測定できるのでペア取りしたりするときに重宝します。

1975年頃に見つけたhfe測定法の概要

1.設計方針
 トランジスタのhfe測定はオペアンプの帰還回路に測定するトランジスタを入れ、エミッタ電流を一定にしてベース電流を測定します。エミッタ-コレクタ電圧或いはソース-ドレイン電圧は、15V(±5Vの電源を使う場合は、5V)になります。無帰還アンプでは、エミッタ-コレクタ電圧或いはソース-ドレイン電圧を高めにして使用することが多いので、実際の動作条件に近くなります。もちろん、PNPとNPNの両方が測定できるように、コレクタとエミッタ側の電源を切り替えるスィッチを設けます。出力段のトランジスタを測定する場合は、電源電圧を±5Vにし、電流も500mAくらいまでは流せるようにします。15Vでは発熱が大きくなり過ぎて測定が難しくなるばかりでなく、うっかりすると素子を壊してしまいます。
 コレクタ電流が大きいとか、hfeが低い場合は、テスタの電流測定モードで直読できます。しかし、分解能が足りない場合は抵抗を入れてその両端の電圧を測定するようにします。最近のデジタルテスターだと0.1mVの分解能で測定できますので、10kΩの両端の電圧を測定するようにすれば、0.01μAの分解能で測定できることになります。こうすれば、高hfeの小信号トランジスタでも問題なく測定できます。高精度のマルチメーターを利用できるのであれば、0.01μAを直読すればいいでしょう。
 FETのVgs(ゲート-ソース間電圧)或いは、トランジスタのVbe(ベース-エミッタ間電圧)も測定できるように、電流測定端子をショートできるようにもしておきます。
 トランジスタ及びFETは、電流を流すと発熱し温度が変わって特性が変化します。このため、選別に用いる場合は、電流を流し始めてから一定の時間で測定する必要があります。このアダプタには測定ON-OFFスイッチを設け、数字を読み取るタイミングを簡単に決めることができるようにします。

2.回路及び部品
2.1 回路
 オペアンプは昔から使われている741を使いました。電源の切替スィッチ、測定ON-OFFスイッチを設けて配線が長くなり、発振しやすくなりますので0.022μFのコンデンサを出力と反転入力に直近で入れます。また、出力電圧を制限する回路を設けないと測定していないときに出力電圧が振りきれてしまい、測定を開始したときに戻るのが遅れる可能性がありますので、オペアンプの出力と反転入力の間に、9V程度のツェナーダイオードを2本逆向きに直列接続して入れます。これで、出力電圧を最大9V程度に制限します。
 非反転入力と反転入力の間は、ノイズを防ぐため680pFのコンデンサを入れています。また、予想しない高電圧が加わらないようにダイオードで保護回路を入れています。
 反転入力には、電流設定用抵抗が繋がります。測定ON-OFFスイッチがOFFになっているときは、電流設定用抵抗を介して電源からの電流が流れ出す(或いは流れ込む)ことになります。反転入力は、オペアンプの出力とツェナーダイオードを介して繋がっていますので、電流を制限するようにしないと、オペアンプの出力からツェナーダイオードを通して大電流が流れ出す(込む)可能性があります。このため、4.7kΩの抵抗を入れています。これがないと、オペアンプが壊れます。この抵抗は、2kΩ~4.7kΩの適当な値でいいはずです。
 また、電流測定端子の前に220kΩを入れ、反転入力側に繋いでいますが、何も接続しないときにオペアンプの出力が不安定になるのを防ぐためです。
 トランジスタ或いはFETに繋ぐ端子には、みの虫クリップを使います。配線が長くなって発振しやすいので、みの虫クリップの中に470Ωの抵抗を入れておきます。ソケットを使う場合は、ソケットとみの虫クリップで接続します。
 測定ON-OFFスイッチの後には、ベース(或いはゲート)とエミッタ(或いはソース)間にツェナーダイオードを2本逆向きと抵抗を直列に入れています。静電気などで、不要な高電圧が掛かるのを心配したためですが、どの程度効果があるかは分かりません。
 最初に述べたように、トランジスタに流れる電流は、電流設定用抵抗と電源電圧で決まります。15V掛けたときと、5V掛けたときに流す電流に見合う抵抗をここに入れます。


 電源は、三端子レギュレータを使っています。オペアンプの電源は、常に±15Vから供給します。



2.2 動作
 NPNトランジスタのhfe測定時の回路を下図に示します。最初に説明したように、測定トランジスタのエミッタは、NFループの中に入っていて、ほぼ0Vになります。このため、エミッタとマイナス電源の間に入っている抵抗Reと電源電圧で図中の式のよに電流が決まります。このとき、ベース電流を測定し、コレクタ電流をベース電流で割ってやればhfeが求まります。
 厳密なことを言えば、コレクタ電流にベース電流を加えた電流がエミッタを流れるし、反転入力の電圧が厳密にはゼロではないし、電源電圧も正確に±15V或いは±5Vにはならないし、オペアンプの入力電流の影響はあるし、実際の回路には220kΩの抵抗が入っているしで誤差の要因が多いです。しかし、同じ条件で測定すれば、トランジスタの選別はできる訳で、実用上は問題ないと思います。


hfe測定の回路例

 NchのFETのゲート-ソース間電圧を測定する場合の回路を下図に示します。これも、hfe測定の場合と同様に、測定FETのソースがNFループの中に入っていてほぼ0Vになります。このため、ソースとマイナス電源の間に入っている抵抗Reと電源電圧で図中の式のよに電流が決まります。このときのソース-ゲート間電圧を測定します。
 こちらも、厳密なことを言えば、正確に測定していることにはならないのですが、同じ条件での測定をすることで選別に使うには問題ないと思います。

ゲート電圧測定の回路例


2.3 部品
 オペアンプは741の他に、現在、入手の容易なLF411とか、2回路入りのLF412、NJM2114、NJM4558などから選んでも問題なく使えます。基板は、ユニバーサル基板を使いました。回路が簡単なので、適当に組んでいます。電源切替スイッチと測定ON-OFFスイッチは、ロータリースイッチを使いました。しかし、電流がかなり流れるので、4回路パラにするなどの対策をしています。
 ケースは、100円ショップで適当な大きさのものを見つけ、それに入れています。

2.4 組立
 部品の数は多くないので、確認しながら組み立てていけばOKです。小信号用のトランジスタしか測定しない場合は、電源は±15Vだけでいいです。
 組立が終わったら、間違いがないか確認し、スライドトランスで徐々に電圧を上げていきます。電源の電圧がちゃんと出ているか確認します。電流設定用抵抗を接続していないときは、オペアンプの出力電圧はほぼ0Vになっています。電流設定用抵抗を繋ぐと、オペアンプの出力電圧がプラスかマイナスの9V程度になります。

±15V電源とオペアンプの回路。右上のソケットにリング状に線をハンダ付け して
いる部分が、 ベース電流或いはベース(或いはゲート)電圧測定用の端子です。

±5V電源。電流を流すので、ヒートシンクを付けています。

内部の様子

操作スイッチ。左側が電源電圧切替、右側が測定ON-OFFスイッチ

左の3個のみの虫クリップがトランジスタ接続用、右の黄色の2個が電流設定抵抗用


3.使用方法
 トランジスタのhfeを測定する場合は電流測定端子をオープンにし、そこに電流計を接続します。Vbe或いはVgsを測定する場合は測定端子をショートし、そこに電圧計を接続します。電流設定用抵抗を繋ぎ、測定するトランジスタ或いはFETのタイプを電源切替スイッチで設定します。電源をONにします。トランジスタ或いはFETをみの虫クリップ或いはそれに繋いだソケットにセットします。測定ON-OFFスイッチをONにします。数秒後に電流或いは電圧を読み取ります。
 大電流でVbeを測定する場合はベース電流が数十μAになり、発振止めに入っている470Ωとか、オペアンプからベースの間に入っている1kΩの抵抗の影響が無視できなくなります。このような場合は、測定するトランジスタのベースに47Ω程度の発振止めの抵抗を入れたクリップを使い、下図のようにしてベースとエミッタ間の電圧を測定します。ベース電流がもっと大きい場合は、発振しないことを確認し、トランジスタのベース-エミッタ間電圧を直接測定して下さい。

大電流の条件でVbeを測定する場合
 トランジスタ、FETとも、電流を流し続けると値が変化して行きます。ですから、測定ON-OFFスイッチをONにしてから、なるべく一定時間後に値を読み取るようにします。「1、2、3、4」と数えて、「4」で読むとかのように決めたらいいと思います。こうしないと、測定結果がバラついて、ペア取りができなくなります。
 実際に2SK246と2SK364をセットし、15Vで4mA流したときの結果を下図に示しますが、安定するまで待とうとすると2SK246だと7分間くらい、2SK364だと1分半くらいかかります。

 また、トランジスタの2SC2240のGRランクを測定した結果も示します。コレクタ電流4mAのとき、hfe測定では安定するまで1分半、Vbe測定では2分以上必要でした。しかし、コレクタ電流が少ないときは、比較的短時間で安定するようです。2SC1815のBLランクでコレクタ電流1mAのときは、20秒程度で安定しました。

2SC2240GR コレクタ電流4mAのときのhfe、Vbeの変化

2SC1815BL コレクタ電流1mAのときのhfe、Vbeの変化

 このように電流を多く流したときは、安定するまで待っていたら100本単位で測定するときには時間がいくらあっても足りません。しかも、周囲の温度が変わると安定したときの数値も変化してしまいます。ですから、ある程度の量を測定する場合は、あまり時間をかけずに測定する必要があります。
 精密なペア取りをしたい場合は、一旦測定を終えた後に、測定値の近いもの同士で時間を掛けて選別すればいいでしょう。
 また、一旦測定した後に再測定する場合は、かなりの時間、室温で放置しないと再現性のよい値が得られません。特に、VbeやVgsは、発熱による影響が大きいので注意が必要です。電流を多く流さない場合や、hfe測定の場合は、それほど神経質にならなくてもいいようです。
 hfeの測定でベース電流の分解能が足りない場合は、測定端子間に10kΩの抵抗を入れ、その両端の電圧を測定すればいいです。最近のデジタルテスターだと0.1mVの分解能で測定できますので、10kΩの両端の電圧を測定するようにすれば、0.01μAの分解能で測定できることになります。

電流設定抵抗を接続。この場合は、15kΩ3本をパラにし、3mAを流している。

電流設定用抵抗

トランジスタの足に直接みの虫クリップを接続した例。いつもは、右のようなソケットに繋いで使っています。
 

実際に測定している様子
 

4.ユニバーサル基板の設計(2011年9月)
 上記の内容は2004年頃のものだし、基板も図面を起こしていませんでした。しかしこのままだと後で改良するにしても具合が悪いので、ユニバーサル基板で作れるようにパターンを設計してみました。ユニバーサル基板は、秋月で入手可能な 95×72mmで2.54mmピッチのものです。設計は、ここまで述べてきた「小信号からパワータイプ」まで測定できるものと、小信号に限定し、基板からの配線を少なくしたものの二種類を考えてみました。
 オペアンプはFET入力タイプに変更し、周辺の抵抗値も若干変更しています。

4.1 一回路入りオペアンプを使い、小信号からパワータイプの測定が可能な回路
 実際にパターンを作るには、ジャンパーがいくつか必要になります。それを含めた回路図を以下に示します。オペアンプは、FET入力のLF411です。V2+は、V1+と同じプラス電源ですが、ジャンパーの後で分岐して使っているので回路図を複雑にしたくないという理由で分けているだけです。

図をクリックすると拡大図を見ることができます。

 ±15Vの電源回路です。ケミコンの容量が大きめですが、他は特に変わった点はありません。

 基板のバターンです。部品面から見た図なので、パターン面から見る図は反転させたものになります。入出力コネクタは、秋月のターミナルブロックで、サイズは緑色のものに合わせています。青色のものでも納まります。ケミコン、フィルムコン、三端子レギュレータ、抵抗、整流ダイオード、小信号ダイオード、ツェナーダイオードなども、秋月で入手できるはずです。
 ユニバーサル基板なので位置を確認しながら組み立てて行かないと、最後に一列足りないということが起こりやすいと思います。図の中の小さな黄色い点が、基板のホールになりますので、注意して下さい。

部品面から見た部品配置とパターンです。図をクリックすると拡大図を見ることができます。


 この基板と測定トランジスタ、スイッチなどの周辺機器との接続図です。±5Vの電源を利用する場合は、別に電源を準備して下さい。±5V電源のアースは、LF411の近くに接続して下さい。
 hfe測定の場合は、電流測定端子(基板図面ではhfeと記されている所)に電流計を入れます。Vbe或いはVgsを測定する場合は、電流測定端子をショートし、ショートした線と隣りのG端子間の電圧を測定するのが簡単です。もちろん、トランジスタの直近で測定してもかまいません。


 ±5Vの電源を作るのであれば、下図のような回路がいいでしょう。アースにジャンパーが無意味に入っていますが、基板のパターンの関係でこのようにしていまうす。


 ±5V電源基板のパターン例を下図に示します。秋月で入手可能な72×48mmの大きさで、2.54mmピッチの基板を想定しています。電源、アースの引き回しは私の好みにしていますが、このあたりは自由に変えてもらったらいいと思います。放熱器は、厚さが薄めのものを使うように考えています。放熱器が大きい場合は、基板取付ネジの位置をずらす必要があると思います。


4.2 二回路入りオペアンプを使い、小信号タイプの測定が可能な回路
 小信号トランジスタ、FETだけの選別に使うのであれば二回路入りのオペアンプを使い、NchとPchを専用化することで基板周りの配線を簡略化できそうなので、設計してみました。やはり、ジャンパーがいくつかあるので、それも含めた回路図になっています。オペアンプは、FET入力のLF412です。電源回路の切替を省略するために、NPNトランジスタ或いはNchのFT、PNPトランジスタ或いはPchのFETの2つの測定回路を組み込んでいます。基板上の部品の数は増えますが、電源切替スイッチが無くなりますので作りやすいと思います。

図をクリックすると拡大図を見ることができます。

 前に出ているものと同じですが、±15Vの電源回路です。

 基板のバターンです。部品面から見た図なので、パターン面から見る図は反転させたものになります。4.1と同様に、入出力コネクタは秋月のターミナルブロックで、サイズは緑色のものに合わせています。青色のものでも納まります。ケミコン、フィルムコン、三端子レギュレータ、抵抗、整流ダイオード、小信号ダイオード、ツェナーダイオードなども、秋月で入手できるはずです。電源の切替回路がなくなっていますが、逆にPNP或いはPch用、NPN或いはNch用に分けて測定回路を作っていますので、部品の数が増えています。
 ユニバーサル基板なので位置を確認しながら組み立てて行かないと、最後に一列足りないということが起こりやすいと思います。図の中の小さな黄色い点が、基板のホールになりますので、注意して下さい。

部品面から見た部品配置とパターンです。図をクリックすると拡大図を見ることができます。

 この基板と測定トランジスタ、スイッチなどの周辺機器との接続図です。これも前設計回路と同様ですが、hfe測定の場合は、電流測定端子(基板図面ではhfeと記されている所)に電流計を入れます。Vbe或いはVgsを測定する場合は、電流測定端子をショートし、ショートした線と隣りのG端子間の電圧を測定するのが簡単です。もちろん、トランジスタの直近で測定してもかまいません。
 NPNトランジスタ或いはNchのFET、PNPトランジスタ或いはPchのFETが別になっているので、測定ON-OFFスイッチを別に設ければ、同時に測定することもできます。まあ、実際にはそのような使い方はしないと思いますが・・・・。

備忘録へ戻る

topページへ戻る


Copyright © 2002 minor-audio.com All Rights Reserved.

カスタム検索